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2022-04-05

改めて確認したい「定額残業制」について 

こんにちは。齊藤マネージメントサービス 代表の齊藤です。前回の最後に少し触れました「定額残業制」について考えてみたいと思います。
多くご質問を頂く部分でもあり、よくトラブルになる部分でもあります。

1.定額残業制とは
「定額残業制」とは、文字通り一定の金額により残業代、具体的には時間外割増賃金、休日労働割増賃金、深夜労働割増賃金、月60時間超割増賃金を支払うことをいいます。「みなし残業制」「固定残業制」という言い方をされている場合もありますが、内容は同じです。
上記意味合いから「定額」=「一定の」という表現が一番内容を的確に表していると思われますので、「定額残業制(代)」という表記にて話を進めます。
よく誤解をされているケースは、「この制度を採用すれば時間に関わらず、残業代を一定金額に抑えられる」というものではないでしょうか。但し、これは誤りです。

2.定額残業制の種類
定額残業制は、その支払い方により大きく2つに大別されます。
一つは「組込型」といい基本給に定額残業代を組み込んで支払っているケース(例えば「基本給に45時間分の時間外手当を含む」といった規定例)、もう一つは「手当型」といい基本給とは別建ての手当(「時間外手当」「営業手当」等)として支払っているケースになります。

3.定額残業制の運用における必要な要素
これまで定額残業制をめぐる多くの裁判が行われてきました。その結果、現在においては定額残業制の運用において必要な要素がある程度確立しています。裁判の内容と結果については割愛し、ここではその要素についてお伝えさせて頂きます。
①基本給と残業代が明確に区分されているかどうか(明確区分性)
定額残業制が有効と認められるためには、支給された賃金のうち、「残業代」にあたる部分とそれ以外の部分とを明確に区分できることが必要です。
このため、定額残業制を導入するなら、「手当型」として、第一要件である明確区分性に関する争点が生じない様にする方が得策です。
「基本給30万円 定額残業手当6万円(月25時間の時間外割増賃金に該当)を支給する。」

組込型の場合でも、残業代が何時間で何円に該当するのかを明記すれば明確区分性が担保されます。
「基本給36万円 ただし、基本給の内6万円は月25時間の時間外割増賃金として支給する。」

一方、下記の記載は問題があります。
「基本給36万円 だだし、基本給には月25時間の時間外割増賃金を含む。」
これだけだと、「36万円」のうち「何円分が時間外割増賃金に相当するのか」が不明瞭であるため、有効とは認められません。

➁定額の残業代部分が実質的に時間外労働の対価の趣旨で支払われていること(対価性)
「組込型」にせよ、「手当型」にせよ、それが時間外割増賃金の趣旨で支給する旨が明記されているかどうかが重要です。ここで問題となるのが、定額残業代に残業代のどの部分までを含むかということになります。
冒頭で申し上げましたが、「残業代」と一口に言っても、通常の時間外割増以外に、休日労働割増、深夜労働割増、月60時間超割増も含みます。もし、通常の時間外割増以外の賃金についても定額化したいのであれば、項目を分けて設計する必要がありますが、運用面ではそれだけ取扱いが煩雑になるということもあります。
また、手当型の場合は、「営業手当」や「精勤手当」など一見して定額残業代の趣旨を有するか不明、または、業務内容・労働時間との関係性から見て残業代の趣旨とは認められない場合もあるため、名称は分かりやすいもの、例えば「定額残業手当」や「時間外手当」など、時間外割増賃金に対する対価であることが一義的に明らかとなる名称にするのがよいと思われます。

③定額残業代を超える割増賃金が発生した場合にその差額を支給する旨の合意(清算合意)
本来、時間外割増賃金は1分単位で計算して支給しなければなりません。毎月定額を固定して残業代として支給する方法は、便利なやり方かもしれませんが、給与支給の原則からすればあくまで例外的な取扱いです。
したがって、定額残業手当として月25時間で毎月6万円を支給することにしたとしても、実際の時間外労働時間が25時間を超える場合は、その超えた時間分の時間外割増賃金を追加して支給する必要があり、これを従業員にきちんと説明し、合意を得た上で運用していなければならないと考えます。

4.定額残業制の時間外労働時間数をどの様に考えるべきか
①実態を踏まえた設計が必要
これから定額残業制を導入する場合には、時間外労働時間数がどの程度あるのかを確認することが望ましいと考えます。これにより、この定額残業制の時間外労働時間数が自社の実態を踏まえて設計されており、残業代の実質を有すると主張することができます。

➁時間外労働時間数は45時間以内が無難
対象となる時間外労働時間数については、明確な基準がある訳ではありませんが、不相当に長時間なものは法的に合理性を欠くと思われます。無用な紛争予防の観点から、敢えて45時間以内の設計に留めておくことが無難と考えます。

③基本給と定額残業代部分とのバランス(比率)
基本給と定額残業代部分との金額のバランスがあまりにも悪く、制度が残業代支払いを免れるための便法として使われていると認められる場合(トレーダー愛事件・京都地裁H24.10.16)などには、当該「定額残業代部分(本裁判例の場合は手当)」は実質的に残業代とは認められないという判例もあります。

5.導入に際しての社内説明会の開催
定額残業制を導入するに際しては、社内説明会を実施した方がよろしいかと存じます。残業代の実態調査の結果を従業員に対して説明し、制度の内容をきちんと説明することで、従業員との後々のトラブルを回避するだけでなく、定額残業制が実態を踏まえて設計され、金額を設計していることで残業代の対価であることは明らかであると主張できることにつながります。

6.その他考慮事項
定額残業制に規定された時間数の残業が実際になかったとしても定額残業代は決められた額を支払わなければなりません。一方、育児休業明け、傷病による復職後、その他事情で残業が規定時間の一部のみ、もしくは全くできない場合もこの例外でありません。こういった場合も考慮して規定に織り込むことも必要と考えます。

本日は、定額残業制について、考察させて頂きました。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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